ポスドク問題と日本の技術力低下
NHKスペシャル 平成史 第5回「“ノーベル賞会社員”~科学技術立国の苦闘~」を見ました。
田中耕一さんのノーベル化学賞受賞後の16年の軌跡を追うとともに、日本の科学技術政策の在り方を問う、非常に興味深い内容でした。
日本の科学技術予算は、選ばれた研究のみに与えられる競争的資金は増加している一方、人件費などの基盤的経費は年1%ずつ減らされています。
それにより、教授や准教授など正規の研究職のポストが減り、博士号を取った若者たちの多くが1年契約の職にしか就けていません。
一方、質の高い(上位10%)論文の引用数は、日本は2003年~2005年の4位から、2013年~15年は9位に下がっています。
政策の効果は?
サム・グラックスバーグという科学者が行った、有名なロウソクの実験を思い出しました。
マッチとロウソクと画鋲を使って、ロウソクを壁にくっつけてくださいという課題を出します。
片方のグループには報酬を提示し、もう片方のグループには提示しない。
どちらのグループが早く問題を解けるか?
結果は、報酬を提示されたグループの方が、提示されないグループよりも解けるまでに3分半も長くかかったというもの。
他にも、行動経済学の研究では、報酬の提示は、創造力を必要としないルーティン業務には効果がある一方、創造性が必要な仕事の場合マイナスに働くという結果が出ています。
あの研究費を取らなくてはならない、と思うと、視野が狭くなり、自由な発想、アイディアは出にくくなっているという可能性はないのでしょうか?
また、短期間で成果を上げなくてはいけないというプレッシャーは、質の高い研究を生み出すためにプラスの効果はあるのでしょうか?
政策の効果に対する振り返りはどのように行われているのでしょうか?
疑問が湧いてきます。
田中耕一さんの「イノベーションとは」
番組の最後に紹介された、田中耕一さんの言葉が印象的でした。
田中さんは、イノベーションの捉え方を変えるべきだと述べていました。
技術だけでなく、結合とか、結びつきなども含めたものであると。
科学と別の分野が組んで新しい仕組みができることも十分イノベーションであり、それを過小評価すべきではないと。
田中さんはもともと電気工学の専門で、先入観がない分、専門家がやらないような失敗をあえてやって、それが発明に結びついたと述べていました。
私が最近学んでいるアクションラーニングでも、全く部外者の質問や、恥ずかしい質問が、視野の狭くなった専門家に大きな気づきをもたらすことがあります。
科学の分野でも、社会科学や人文科学の知見を取り入れる取り組みがもっとあっても良いのではないかと感じました。